投稿

10月, 2023の投稿を表示しています

知っているけど知らないこと

10月28日の午後、事務部長と看護部長と3人で社会福祉法人愛星会「やまばと」を訪れました。20年以上原町赤十字病院で働いているのですが、訪問は初めてです。 私は小学校の高学年頃、母親に1枚の映画チケットを渡されました。それは「ねむのき学園」という、肢体不自由児童養護施設の記録映画です。映画の内容はほとんど覚えてはいないのですが、その中の映像のいくつかの場面は、私の心の片隅にずっと消えることなく存在していました。しかしそのことについて口をすることほとんどありませんでした。というより、私が意見を言ってはいけない、意見を言える人間ではないと、誰かに強制されるわけでなく、自分で自分を戒めていたような気がします。 今回「やまばと」の職員に一人に優しいお誘いを受け、行くことにしました。もちろん私が子供時代に見た「ねむのき学園」と「やまばと」は全く異なる施設です。「やまばと」に入所している人の平均年齢は、確か54歳くらいと伺いました。車いすの方もおりません。よって、私のかすかな記憶にある「ねむのき学園」と「やまばと」を比較すること自体が誤りであり、このコラムを読んで不快に思った方に申し訳なく思います、お許しください。 ところで私は「やまばと」という施設の存在をもちろん知っていました。そこに入所している人も時々外来でお見かけします。しかし入所している人たちがどういう場所で、どんな生活をしているのか、そしてそこで働く職員はどういう人でどんなことを考えているのか、全く知りませんでした。知ろうという努力を払うこともありませんでした。今回の2時間程度の訪問で知ったというつもりは毛頭ありませんが、その一端を垣間見ることができ、貴重な機会をお与えくださった優しい職員の方々に深く感謝する次第です。 最後に この日の午前中、原町赤十字病院の災害救護訓練が行われました。職員の皆さんがとても頼もしく見えました。また夜は4年ぶりに高校時代の部活動の仲間と伊香保で再開しました。いつも思うことですが、まるで昨日も会っていたような形で会話は始まり、明日また会うような雰囲気で翌日朝に別れました。昔からの友人はいいものです。

第1回原町日赤フォーラム

イメージ
令和5年10月21日土曜の午後、第1回原町日赤フォーラムが開催されました。第1回ということですが、実はこのフォーラムには前身があります。2007年の4月に始まった、「吾妻郡がん市民セミナー」です。毎年春と秋に開催しておりました。最初の5、6年、つまり第10数回までは原町日赤の医師と、私の仲間である群馬大学の外科の医師に吾妻に来ていただき、胃、大腸、肺、肝臓、乳腺、胆膵、食道などのがんについての講演をしていただきました。その後は原町日赤の内視鏡センターや健診センターのスタッフ、看護師、薬剤師、栄養士、社会福祉士、理学療法士などのリハビリテーション部、放射線課部、検査部の皆さんにもそれぞれの立場で講演をしていただきました。さらに乳癌患者会である卯の花会、消化器癌患者会である桜月夜会の会員の皆様にも複数回ご登壇いただき、自らの経験をお話ししてくださいました。このセミナーは2019年10月までの13年間、第26回まで途切れることなく続きました。このセミナーを継続することで、原町赤十字病院ががん診療をしっかり行っている病院だという意識が根付いてきたと実感しております。 2020年4月にも予定しておりましたが、新型コロナウイルスの蔓延により中止、その後3年間このセミナーは中断せざるを得ませんでした。今年5月に新型コロナウイルスの扱いが5類に変更になり、原町赤十字病院の新たなスタートという意味で従来のやり方を変更し、「第1回原町日赤フォーラム」という形で復活しました。 講演を聞いてくださった方はきっと大いに満足したのではないでしょうか。内科部長の富澤先生からは逆流性食道炎は生活習慣病の一つであり、その対応には野村監督の残した言葉をかみしめることが重要だとお話ししてくださいました。整形外科部長の齋藤先生からは、骨粗しょう症や膝関節症のお話をしてくださいました。あまりに話が上手なので、吾妻の住民が齋藤先生の外来に殺到するのではないかと心配するほどでした。外科部長の田中先生からは得意の内視鏡手術の話をしてくださいました。今年から田中先生が当院に赴任してくれましたので、当院の内視鏡手術は大きく進歩すると思います。最後は緩和ケア科部長の笹本先生です。笹本先生が緩和ケアや在宅診療にかける情熱については、私自身だけでなく原町日赤の職員全員が承知しているところだと思います。今後の当院のあり方を考

ニートフェルローレン

最近、J・M・クッツェーという南アフリカ出身の作家の本を図書館で借りました。ノーベル文学賞も受賞しておりますので世界的に著名な作家なのでしょうが、私自身はあるきっかけで最近名前を知ったくらいで、この作家について語ることはできません。私が借りた本には非常に短い短編が三つ収められていました。その中の「ニートフェルローレン」という作品がとても印象に残りました。 南アフリカの歴史については、私たちも本や新聞、教科書などで、あるいはテレビやラジオのニュースなどで知ることはできます。私自身の南アフリカに関する知識もその程度です。したがって、実際にそこに暮らす人々の生活を知ることはできません。ある地域の中に新しい道ができ、新しい建物ができ、新しい産業が栄えることは、一般的には良いこととされています。しかし長い目で見た場合、実際にそこに暮らす人たちにとって本当に良いことなのか、それがその地域で生活する人々を幸せに導くのか、そんなことがアルパトヘイト廃止後の南アフリカのある地域を舞台に描かれた作品が「ニートフェルローレン」です。吾妻の現状にも重なるような気がしました。 ところで10月15日の日曜の午後、中之条町のバイテック文化ホールで第37回群馬県糖尿病セミナーが開催されました。専門外ではありますが、当院の高木看護師長や下田先生の講演もあり参加しました。糖尿病の診療は奥が深いですね。患者さんに病気についてよく知ってもらうことは重要ですが、病気であることを意識させないことも大事なのですね。そして糖尿病の治療をしっかり行うためには、患者さんの生活の中に入り込んでいくことが不可欠である、ということがよくわかりました。 医療従事者は新しい道や建物を作ることはできません。しかし、患者さんや家族の生活を知ることができます。私自身もまだまだ未熟と言わざるを得ませんが、できる限り患者さんの生活の中に入り込んで、その生活が豊かになるよう努力していきたいと思います。

今年の夏はとても暑かったですね。連日猛暑で、屋外で仕事をされる方は本当に大変だったと思います。私は以前もこの院長便りにも書いた通り、毎朝ランニングをしています。休日は長い距離を走るため、熱中症になるのではないかと感じたことがたびたびありました。これは毎年のことで自分でも承知していますので、夏は必ず一定の距離で水道があるコースを走るようにしています。 ところで頭の方では「今年の夏は暑かった」という記憶は鮮明に残っていますが、不思議なもので体の方ではその暑さをすっかり忘れているようです。しかも10月に入ってからの気温の変化には、皆さんも困惑しているのではないでしょうか。もうしばらくすると、冬だなと考えてしまいそうです。 人間の感覚は極端なものには鋭く反応しますので、暑さや寒さ、あるいは台風などの大雨、大雪については、私たちが五感を研ぎ澄ます必要はありません。何しろ天気予報でも連日知らされます。強制的に送り込まれるこれらの情報により、私たちの天候に対する感覚はますます鈍くなっていきそうです。この頃の天気予報は、暑い日があると夏のようだと言い、寒い日に対しては冬のようだと形容することがしばしばあります。 秋は、それを実感しようとしないといつの間にか消え去っていくものかもしれません。秋を味わうことで気持ちに余裕ができ、人の心を豊かにしてくれます。日本の和歌には秋を読んだものが多々あります。 寂しさに宿を立ち出でて眺むれば いづこも同じ秋の夕暮れ 百人一首にも採られている良暹法師の歌です。延暦寺から大原の里に移り住んだ後に詠まれたということですが、私には、遠く離れた人、なかなか会うことのできない人も、きっとこの秋の情緒を自分と同じように感じているに違いない、そんな歌だと勝手に解釈しています。 もう一つ紹介します。古今和歌集の秋歌 上 木の間より もりくる月のかげ見れば 心づくしの秋は来にけり 詠み人知らず

事例検討会

吾妻の様々な職種の人たちと定期的に事例検討会を開催しています。 様々な職種というのは、 医師、看護師、薬剤師、ケアマネ、保健センター 等 の行政の方々、施設事業者や勤務者、栄養士などです。コロナ前 に 対面式で始まり 、現在はズームを利用し て います。事務局 は「あがつま医療アカデミー」というNPO法人です。ズームでの開催は最初 こそ 戸惑うことも 多かった のですが、最近は だいぶ慣れてき て 、 途中に 行う グループワークも 含め進行は非常にスムーズです。   9月末に今年度初めての事例検討会を行いました。この検討会でディスカッションされる事例は、うまくいかなかったもの、反省すべきものが多 い のですが、今回は うまくいった事例が提示されました。事例の提供者は調剤薬局の薬剤師です 。調剤薬局の薬剤師 が患者さんから得られる情報は極めて少ないものです。そのため、処方箋 の内容 や その方が醸し出す雰囲気 、 わずかな 会話の中で 、 その 生活 を想像 している とのこと で した 。 もし患者さんに積極的に関わろうとするならば相当能動的にならざるを得ませんし、逆の言い方をすれば、もしその気持ちが乏しければ患者さんとの関係は 実に浅いもの になってしまいます。 ( これはすべての医療 者 に言えることです が)   今回の 薬剤師 の対応は とても 感銘を受けました 。患者さんの問題点を少ない情報からあぶり出し、それを一気に解決するのでなく 、 一つの 些細 なところから始め る、それがうまくいったところで 他 の問題点も少しずつ修正していく、しかも本人が自発的に 変えていく ような環境を作り出 しておりました。 この方は自分の 健康に対する意識 も高まっていったようです。患者さんの生活がよく するために 薬の力 は大事ですが、それ以上に重要なのは 人間の力なのでしょう。 まさに、人間を救うのは人間だ、です。   最後に 一言。 以前このコラムで紹介した「ヘッセへの誘い」を中之条町の図書館で借り、私のところに持ってきてくださった方がおりました。心優しき方に心から感謝いたします。