クロッカスの鉢植え
休日の午前中、私はよく図書館に行きます。今日もいつものように図書館に行ったのですが、そこで数年前に読んだことのある、ある女性作家のエッセイ集を目にしました。そのエッセイ集にはたくさんの小さな話が収められています。その中にある「クロッカスの鉢植え」というわずか2ページ程度のささやかな話が、私の心の中にずっと心に残っていました。また借りてしまいました。
クロッカスという花を私はよく知りません。たぶん目にしたことはあるのでしょう。この話を読んだ後ずっと気にかかっていながら、いまだに「この花がクロッカスである」という認識のもとで、この花を眺めたことは残念ながらありません。
今回はこの小さくささやかな、そしてちょっと切ない話について紹介したいと思います。この話とは以下の通りです。
「今まで誰にも話したことはないのです。別に秘密でも何でもないのですけれど‥・」
ある女性が友人の女性に向かって、こんな形で会話を始めます。その女性は20年前に音大生だったようです。そこで、同じ音大のピアノ科の非常に控えめな男性に好意を抱きました。その男性は生まれつき病弱で発育が遅れたために手は小さく、1オクターブ届くのがやっとな状態だったようです。それでも彼が奏でる演奏はとても繊細で、豊かな才能を有しているのは明らかでした。彼女はある演奏会で彼が引いた曲をこっそり録音しました。そして彼女は思い切って、彼に逢ってほしいと電話をしました。約束の日、彼女は花屋でクロッカスの鉢植えを買って、彼の家近くの喫茶店に向かいました。そこでいろいろなことを話したようですが、それは全く覚えていませんでした。帰り際立ち上がった彼女は、彼の背丈が自分の胸くらいまでしかないことを知りました。彼女は悲しみで胸が締め付けられましたが、そのわけのわからない煙のような哀しみ(ここは原文)が数か月後にはっきりとした形になりました。彼は通学の途中、心臓麻痺で急死しました。
彼女はショックで大学をやめ、音楽から離れた生活を送っていたようです。それから十数年が過ぎ、引っ越しのため荷物の整理をしていた時に、彼の演奏を録音したテープが出てきました。彼女は彼の母親に電話で連絡し、そのテープを送りました。その後母親から手紙が届きました。以下、原文
「私も夫も苦しい毎日を過ごしてまいりました。・・・二十三年の短い生涯だったとはいえ、これほど思って下さったひとがいたことを知り、はじめて癒されました。テープを聴きながらふいに、あの子がクロッカスの鉢植えを大事に抱えて帰ってきた日のことを思い出しました。本当に幸福そうな表情でした」
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