心理的安全性
前橋日赤の松尾副院長の計らいで、7月19日に前橋赤十字病院で開催された医療安全講演会を、原町赤十字病院でもオンラインで同時聴講する機会をいただきました。講演のタイトルが「医療安全と心理的安全性」というものでした。「心理的安全性」という言葉は意味としては理解できますが、あまり馴染みのない言葉でもあり、また医療安全とどのように関連するのか興味をもって拝聴しました。ここでは講演の中で取り上げられた「心理的安全性」に関する代表的な事例を紹介したいと思います。(架空の事例です)
ある看護師が、薬の量が一桁多く記載された処方箋を見つけました。この量はこの薬のことを知っている医療者であれば誰でも間違いだと気づく量です。看護師は自分でその量を修正できないので、その薬を処方した医師に直接話そうと思いますが、その医師は普段から非常に話しづらいタイプの医師だったようです。その看護師は勇気を出してその医師に間違いを指摘しました。本来であればその医師は感謝すべきなのですが、なんとその指摘に対して「そんな数字は間違いに決まっているだろう、自分がそんな処方を出すはずがない、だいたい看護師の分際で医師に対するその態度は何だ」と、逆切れを起こします。とんでもない医師ですよね。この例はかなり極端ですが、このような事例がいくつか紹介されました。講演された先生も「こんな医師はどこにでもいますよね。私もいくつかの病院で経験しています」とおっしゃっていました。確かにそうだなと思いながら、自分自身のことでもあるなと、反省もしたところでもあります。
この事例からも推測できると思いますが、「心理的安全性」とは組織内の気になったことや間違いを、気軽に言い出せる雰囲気を保つことです。多くの医療安全上の問題は、実は誰かが気がついているけれども、それが共有されていないときに起こります。離職やハラスメントの防止にもつながる重要な概念です。ただし注意すべきことは、気軽な雰囲気が蔓延し過ぎると安易な生ぬるい環境になってしまいますし、また言いたいことを言い合えるということは、それが過激になると非難し合う、悪口を言い合う状況に陥ることもあります。つまり「心理的安全性」は重要なことではあるけれど、最低限のルールや知識がないと、理想とはかけ離れた姿になってしまうリスクもあります。
それを回避するためには、お互いを尊重しあう態度、謙虚な姿勢、真摯な熱意などが必要だということです。これは組織自体にも求められることでもあり、組織を構成する個人にも必要なことです。「心理的安全性」とはいい言葉ですが、なかなか難しいですね。
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