環境の力
サマーセット・モームの短編のひとつに「環境の力」という作品があります。高校時代にこの作品を読みました。その後その筋書きなどはすっかり忘れていたのですが、そのタイトルだけはずっと心の片隅に残っていました。少年なりに、当時の自分の置かれている環境に対して抗う気持ちがあったのでしょう。分かりやすいそのタイトルは、自分自身を鼓舞する一つのキーワードでもありました。モームには他にも多数の名作があります。いくつかの作品を大学時代に読みましたが、その中には私の人生に深く影響を与えたものもあります。
大学卒業後、モームの作品を手に取ることは全くありませんでした。40年近く経過し現在の立場になった1年程前、図書館でたまたま「環境の力」を含むモームの短篇集が目に入り、改めて読むこととしました。内容はタイトル通りですので、読まなくともその中身はだいたい想像はできるでしょう。
少年時代、環境の力はとても巨大で、態度に現さずとも常にそれに対して抵抗していたような気がします。そして自分なりの鍛錬や努力で、それを打ち負かすことができるとも思っていました。それがいつしか自分の考えが変わってきたようです。いつからなのかよくわかりません。日々の生活を送ることが精一杯だったからなのでしょうか。環境は打ち負かす対象ではなくなっていました。むしろ自分の置かれた環境を受けとめ、それを十分考慮に入れることによって、物事を考えるようになっていました。
「地域医療構想」というものをご存じでしょうか。「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」とされています。言い換えれば「現在だけでなく未来についても自分たちの置かれた環境をよく把握し、しっかりとした医療体制を構築せよ」ということでしょう。
少年時代は対峙するものであった「環境」は、今では冷静に受け止め知的に理解すべきものに変わりました。「環境」には確かに力があります。日本のほとんどの地域は、人口減少、少子高齢化が進みます。自分たちだけが、自分だけがよければよい、という考えでは必ず行き詰ります。同じ環境で生活する様々な人たちと協力することが大事なのだと思います。
そして私たちはいつまでも「環境の力」にひれ伏す必要はありません。私たちには英知があります。私たちの置かれた環境をただ受け入れるだけでなく、上手に利用していく、あるいは変えていく姿勢を持ち続けるべきなのだと思います。
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